旬感食 to ナ美

旬感食 to ナ美 Vol.27「豚肉」

陽射しも強くなり、夏本番が近づいています。

近年では、温暖化により猛暑日が続く傾向にある夏を乗り切るために、バランスの良い食事をとってエネルギー補給をしましょう。

夏バテ防止にスタミナを付けたい時は、やっぱり肉料理が一番。

豚肉を使った「とんかつ」や「生姜焼き」は、肉料理の中でも人気が高く、多くの人に食されています。

 

 

豚肉料理は世界各地に根づいていますが、自分の土地で育てた豚をよりおいしく食べたいと、料理方法をあれこれ考えて工夫してきたのは、世界共通の人間の営みのようです。

人はいつの時代から、どんようにして豚肉を食べてきたのか、世界と日本の豚食文化の起源はどこにあるのでしょうか。

古代ローマ時代に書かれたプリニウスの「博物誌」には、豚についてのこんな記述が残されています。

「どんな動物でも豚ほど多くの材料を店に提供しているものはない。すべての他の肉はそれぞれにひとつの風味しかもたないが、豚は50の風味を持っている。」

美食家と言われた古代ローマ人は、塩漬けや燻製はもちろん、細切れ肉を腸に詰めたソーセージも作っていたようです。

 

 

家畜化された猪

野生の猪を人が家畜化して、その子孫が豚と考えられています。

豚は、もともと狩猟の対象だった野生の猪を、人が飼い慣らすようになった事で生まれたというわけです。

ヨーロッパをはじめとする世界各地で人類が定住とともに農耕を始めた頃、豚の家畜化は時を同じくして始まったと考えられています。

家畜化が進んだ大きな理由として、雑食性で群れをなす豚の習性から一カ所に囲って飼いやすく、妊娠回数も多く多産出来る事が考えられます。

ヨルダンの農耕遺跡からは紀元前6000年頃の豚の骨が発見され、この骨は家畜化初期の物と考えられていて、ギリシャでも紀元前2500年頃には家畜化が一般化していたと考えられ、古代ギリシャ人は地中海沿岸に入植する際も豚を伴ったため、やがて古代ローマ人へと伝わったと考えられています。

 

 

中国では大切な家畜

中国をはじめとするアジアでも、豚の家畜化は時期を同じくして始まり、中国桂林市郊外の遺跡からは、紀元前1万年前頃の世界最古の豚の遺骨が発見され、豚の形の陶器なども出土しています。

豚が古くからいかに人に欠かせない存在だったかは、漢字を読み解くと分かってきます。

「月」の横に「豕」と書く「豚」、「家」という字は屋根の下に「豕」と書き、豚がお供え物として祭られていた様子や、豚が飼われていた事を示すものとして、甲骨文字から変遷をたどってきたものだと考えられています。

 

 

日本の養豚が幕開

ところで、日本では豚はどんな存在だったのでしょうか。

奈良時代の「続日本記」には「飼っていた猪」という記述があることから、既にこの時代に家畜として猪を飼養していたことが分かりますが、その後の聖武天皇の時代以降は、仏教による殺生禁断の思想により、沖縄を除き、豚が表だって食べられることはなくなったとされています。

南蛮貿易が盛んになった織田信長の時代に、再び肉食文化が注目されると貴族や支配階級の間では滋養に富み、体に良い「薬食い」と称して食べられるようになったとされています。

元禄や文化文政の時代には、上方や江戸に町人文化が花開き、「ぼたん(猪)」、「もみじ(鹿)」、「さくら(馬)」などの呼び名で肉食が広まり、江戸中期になると猪は「山くじら」と称され、多くの庶民が猪を食べられるようになったようです。

日本の肉食文化は、明治の文明開化とともに大きく幕を開けると、養豚が盛んになります。

その後、高騰した牛肉の代わりとして豚肉の消費が伸び、洋食屋の台頭とともに豚肉は人気の食材となっていったようです。

 

 

豚は遠い昔から、その美味しさゆえに人に愛され、時代を超えた今もなお世界各国で愛され続けています。