ワイン de トリップ

ワイン de トリップ Vol.54「岩手県:花巻市」

日本のワインの生産地として岩手県を思い浮かべる人は少ないと思いますが、実は国内産ぶどうを100%使用し国内醸造された「日本ワイン」の生産量で、岩手県は全国5位を誇っています。

 

 

中でも花巻市エリアは寒暖差が大きく、早池峰山の南西向き緩斜面と石灰質土壌などぶどう作りに向く風土から、世界も注目し始めた「日本ワイン」の産地です。

老舗ワイナリーから新進気鋭のユニークなワイナリーが点在し、冷涼な気候に加え、比較的小規模なぶどう農家による丁寧な手作業から個性的なワインが生まれています。

岩手県を故郷に持つ宮沢賢治が「イーハトーブ」を夢見た、陸奥の大地が生む銘酒と貴方も出合えるかもしれません。

 

 

銀河鉄道の夜

孤独な少年ジョバンニが、友人カムパネルラと共に銀河鉄道の旅をする物語「銀河鉄道の夜」は、宮沢賢治童話の代表作品のひとつです。

この物語には、多くの造語が使われていることや、賢治の死により未定稿のまま遺されたことなどもあって、研究家の間でも様々な解釈が行われてきました。

初稿が執筆された1924年頃から、晩年の1931年頃まで推敲が繰り返され、1933年の賢治の死後、原稿は下書きとして残されました。

1934年刊行の文圃堂版全集が初出とされる「銀河鉄道の夜」は、未完成原稿のため本文の校訂が研究者を悩ませますが、1974年刊行の筑摩書房版全集の編集過程で綿密な検討が行われ、第1次稿から4次稿まで3回にわたって大きな改稿が行われたことでも知られています。

この物語からは数多くの派生作品も生まれ、これまでに映画化やアニメーション化、演劇化が幾度となく行われる人気作品となりました。

 

 

花巻駅北側の高さ10m、長さ80mの擁壁に、光で浮かび上がる幻想的な「未来都市銀河地球鉄道」の絵は、「銀河鉄道の夜」をイメージして描かれました。

特殊塗料で描かれている「未来都市銀河地球鉄道」の絵は、日中は白い輪郭しか見ることができませんが、夜のライトアップによって浮かび上がる、ロマンチックな人気スポットとなっています。

 

 

SL銀河

1940年からおよそ30年にわたり山田線などで活躍した牽引する機関車「C58 239」は、1972年の引退後は岩手県盛岡市内の交通公園に約40年間保存されてきました。

2012年12月より、約 1 年間にわたる復元修理が実施され、試運転を幾度となく重ねた後に、2014年4月に「SL銀河」として運行を開始しました。

牽引される客車「キハ141系 4両」は、釜石線沿線を舞台に描かれた宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を代表的なテーマとして列車全体がプロデュースされ、宮沢賢治の世界観や空気感、生きた時代を共有することで東北の「文化・自然・風景」を感じさせる車内空間に仕上げられました。

2023年6月に、車両の老朽化もあって引退しましたが、ラストランには多くのファンが集まり、ゆっくりと走る最後の姿を目に焼き付けながら別れを惜しんでいました。

 

 

花巻温泉郷

花巻市西部の静かな山あいを流れる台川と豊沢川沿いを中心に温泉が湧く花巻温泉郷は、花巻温泉、台温泉、金矢温泉、松倉温泉、志戸平温泉、渡り温泉、大沢温泉、山の神温泉、鉛温泉、新鉛温泉、花巻北温泉、東和温泉の12の温泉地を総じて「花巻12湯」と呼ばれています。

南部藩の時代にお抱えの温泉地として愛されてきた温泉郷は、各温泉の湯元が発見された年代の記述が残るものでは300年~400年前とされていますが、平安時代の坂上田村麻呂が発見したなど、より古い逸話が残る秘湯も存在しています。

花巻の先人も好んだ趣ある湯治宿や温泉旅館、昔ながらの温泉宿が十数軒立ち並ぶひなびた温泉街、ファミリー・カップルでリゾート気分を満喫できる近代的なホテルなど、旅の目的や気分に合わせて様々な温泉旅を楽しむことができます。

 

 

釜淵の滝

花巻温泉の奥に位置する「釜淵の滝」は、落差8.5m、幅30mの円い形の大磐石の上を台川の清らかな水が玉すだれをかけたように数条に分かれ流れ落ちます。

滝名は、岩磐が炊飯釜を伏せたような形をしているところから名づけられたとされ、滝周辺の森林は1周20分程度の遊歩道になっていて、木漏れ日のなかを歩ける手ごろな散策コースとなっています。

宮沢賢治作「台川」に「さうだ、釜淵まで行くといふのを知らないものもあるんだな。・・・・・(中略)実に円く柔らかに水がこの瀑のところを削ったもんだ。」という部分があり、現地には賢治の詩碑が建ち、2005年(平成17年)3月には、国指定名勝「イーハトーブ風景地」の一つに指定されました。

 

 

この機会に、宮沢賢治のゆかりの地で、物語の世界観を感じながら温泉と自然を満喫し、そして、美味しいワインとの出会いの旅を、計画してみてはいかがでしょうか。