レーシングカー開発で知られる童夢は、今まで培った複合素材技術と構造設計ノウハウを応用し、チェリストの柴田花音さんのために特別仕様のカーボン製チェロケースを製作した事を発表しました。
デザインは、イタリア・ミラノの名門カロッツェリア「Zagato(ザガート)」のチーフデザイナー、原田則彦氏によるものです。
本プロジェクトは、TEAM GOH代表の郷和道氏の着想から始まり、柴田花音さんが使用していたカーボン製ケースとレーシングカーの素材が共通している点に着目し、音楽とモータースポーツ、イタリアと日本をつなぐ新たな協業として構想されました。
300年以上の歴史を受け継ぐ名器を守るために、童夢の設計とモノづくり、原田氏のデザイン監修、そしてOMP Racing S.p.A.がそれぞれの専門分野で協力し、伝統と革新、感性と技術、そして両者に共通するクラフトマンシップが融合し、世界に一つだけのチェロケースが誕生しました。
日本の高度なカーボン技術とイタリアの造形美学が出会い、「レーシングスピリットが音楽を包む」という、新たな美のかたちが生まれています。

童夢からのコメント
〈構造が語る美、技術が支える文化〉
童夢は創業以来、モータースポーツの世界で「軽く、強く、美しく」を追求してきました。車体の剛性や空力性能を極限まで追求する中で、構造が自然と造形を生み出していきます。今回のチェロケース製作では、そうした童夢のものづくりの姿勢を音楽という文化領域に投影しました。
300年以上の時を超えて受け継がれる楽器を守る外骨格として設計し、レーシングマシンと同様に、強度・重量・形状のすべてを最適化。軽量かつ高剛性のモノコック構造を実現しています。内装にはイタリアで原田氏が調達したシルク素材が使われ、楽器のニス塗装を傷めない配慮をするとともに、チェロケースとしては珍しい、弓を4本収納できる仕様となっています。
このプロジェクトは、童夢にとって「モータースポーツ技術が文化を支える」ことを示す新たな挑戦であり、優れた職人たちによる、工学と感性の融合が生んだ機能美の作品です。また、本ケースの設計を担当した童夢エンジニア・天澤は、幼少期よりヴァイオリン演奏に親しむ、レース界では異色の存在です。長年にわたり培った弦楽器への理解とこだわりを、レーシングカー設計のエッセンスとともに細部へ注ぎ込み、唯一無二のチェロケースを完成させました。

原田則彦氏のコメント
〈究極のチェロケース、そのデザイン〉
弦が張り詰めた音色で人を魅了するように、ものの形も線と面、光と影の生む緊張感が生み出す美で、見る人の心を満たします。
このチェロケースは、全体を包むように流れる極めてシンプルな稜線とその間に張られた豊かで緊張感のある面によって構成されています。それは、中に収められる美しい楽器そのものを抽象化させつつ、楽器自体の外骨格であるような堅固な機能性と、使用感を考慮し、コンパクトにまとめる実用性を兼ね備えた究極のチェロケースデザインのメインテーマです。
今回のデザインでは、ケースを上下に流れる稜線に連続的に変化する角アール(面と面の交わる稜線に付ける丸さ)で、豊かな低音からヴィヴィッドな高音まで絶え間なく変化する様子を表現しています。
それらの技法はイタリアで高性能なスポーツカーをデザインするときの手法と基本的には同じもので、開発に全面的に協力いただいた童夢のレーシングマシンに注がれる高度な技術や情熱とあいまって、このチェロケースの造形の根底に流れるものとなっています。

柴田花音さんのコメント
〈無骨でクラシック、それは音楽家としての私の姿〉
私が現在演奏しているチェロは、1694年にイタリアで制作されたGiovanni Grancinoです。300年以上の歴史を持つ名器が長い時を経て日本に渡り、宗次徳二コレクションより私に貸与されていること自体が、奇跡のようなご縁だと感じています。
そして、今回、その大切な楽器を守るこのケースが、TEAM GOH代表の郷和道氏のプロデュースのもと、レーシングカー製作で知られる童夢の日本の技術と、世界的に名を馳せるイタリアの名門カロッツェリア・ザガートでチーフデザイナーを務める原田則彦さんのデザインによって生み出されました。
楽器の故郷イタリアと、私が生まれ育った日本。その二つが再び結びつき、音楽とモータースポーツという異なる世界が融合したケースに出会えたことは、私にとってかけがえのないご縁と感じ、大きな喜びとなっています。
この世界に一つの特別なチェロケースを受け取ってから半年、国内外の移動や舞台で常に共にしてきました。実際に使う中で強く感じるのは、その「圧倒的な安心感」と「唯一無二の存在感」です。
デザインは、単なるケースを超えて芸術作品のようです。流線型のフォルムは舞台裏でもひときわ存在感を放ち、私の活動を共に支えてくれる大切な存在となっています。
特に、取っ手にはレーシングカーのステアリングを模した要素が、ショルダーストラップには実際のレーシングカーで使用されるシートベルトが使われており、イタリアのレーシング用品メーカー OMP Racing S.p.A.のご協力により提供いただいたもので、モータースポーツと音楽の世界が出会った証ともいえます。
ステアリングは車を操るために、シートベルトはドライバーの命を守るために欠かせないものです。その二つが組み込まれていることで、このケースもまた、楽器を支え、守るための確かな存在であることを実感します。
どんな移動のときも、このケースが共にあることで、心から安心して旅を続けることができます。さらに、空港や街中では一般の方から声をかけられ、音楽界の方や同じチェリストからも興味を持っていただくことが多々あります。そのたびに、このケースはただのケースではなく、私の活動を引き立ててくれる特別な存在だと実感します。
このケースのデザインテーマは「無骨でクラシック」。シンプルで力強い存在感と、時を超えて愛される普遍性をあわせ持っています。
それはまさに、私が音楽家として目指している姿とも重なります。音楽の本質に真摯に向き合い、歴史や伝統を受け継ぎながら、自分の声を誠実に表現していきたい。その想いを、このケースが象徴しているように感じます。
このチェロケースは、これからの私の音楽人生を共に歩むかけがえのない「相棒」です。歴史ある楽器と最先端の技術が出会い、日本とイタリアという文化が再び結びついて生まれたこの奇跡的なプロジェクトに関わってくださったすべての皆様に、心から感謝申し上げます。
チェリスト:柴田花音〈Canon Shibata〉

2000年生まれ、愛知県出身。卓越した技巧と豊かな表現力で、国内外で注目を集めている若手チェリストのひとりです。
第92回日本音楽コンクールチェロ部門第2位。第14回ビバホールチェロコンクール第1位。.Robert W. and G. Ann Corcoran Concerto Competition 2022グランプリ受賞(カナダ)、ほか受賞多数あり。
2025/26年度、トロント王立音楽院初の日本人リバンク・フェローシップ・アーティストに選出される。使用楽器は宗次コレクションより貸与されたG.Grancino (1694年製)、使用弓は西村賢治コレクションより貸与されたE.Sartory。
現在アメリカ・ノースウェスタン大学ビーネン音楽院にて、特別特待奨学生としてハンス・イェンセン氏に師事。CHANEL Pygmalion Days 2025アーティスト。
これまでに宗次徳二音楽奨学基金、ロータリー昭和、ヤマハ音楽財団、ロームミュージックファンデーション、江副記念リクルート財団の支援を受ける。2025年米国シカゴのLuminarts財団よりクラシック音楽部門フェローに選出される。
モータースポーツの技術とイタリアデザインが生んだ、機能と美が融合したチェロケースは、受注生産にも対応が予定されています。


